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■法律問題__________健全な社会のための法の矛盾を考える
法曹ムラの不合理(その1) 経済的全損
法曹ムラの不合理 その1――――経済的全損
一般民衆と裁判所の考え方の乖離は以前から指摘され、改善のための大きな制度変更としては「裁判員制度」なども出来たが、そもそも法曹界しか知らない裁判官が大半の日本では、裁判所の常識と民衆の常識はかなり乖離している部分が多い。 一般の常識とは違ういわゆる「ムラ社会の常識」が跋扈しているようだ。 今回は私が経験した交通事故処理に関する不合理を取り上げたいと思う。
自動車の物損事故で追突など加害者に100%の責任がある場合、被害車両の修理費は100%加害者が負担しなければならないのは、常識から考えても当然であることは論を待たない。 ところが、年式が古く流通価値が低額な車両ではこの常識が役立たなくなるのです。
私は新車から13年超経ったマツダアテンザ4WDに乗っていました。 ある日信号待ちで停車していた際、後部から追突されました。 相手は60歳をだいぶ過ぎたおばさん(おばあさん?)です。 タイヤがパンクしているのに気づかず、相当な距離を走行したためホイールが過熱しブレーキが利かなくなり、かなりな勢いで1台の車に追突した後向きを変えて私の車にも追突したのです。 幸い私の体には大きなダメージはありませんでしたが、車は大ダメージでバンパーやフレーム、マフラー等が大きく変形したのです。
私は停車中でしたから、当然過失はゼロです。 加害者も自分が100%悪いことはわかっていましたので、「任意保険に入っているので保険できちんと直します」という話となりました。 ところが、加害者が加入している保険会社が私の車両の被害状況を査定した後電話があって、とんでもない話になっていくのです。
保険会社の査定員が私の車を修理工場に見に行ってきた結果、修理費は70万円程度と見積もられました。 ところが私の車は新車から12年が経過しているので車の価値が26万円程度で、諸経費などを考慮しても32万円程度しか支払えないと保険会社から連絡してきました。
私は修理せずに中古の車に入れ替えることも考え相当程度の中古車を探してみました。 インターネットの中古車サイト「グーネット」や「カーセンサー」で調べれば、確かに市場には同程度、同年式で30万円前後の中古車が存在します。 しかし、私の車は4WDなので台数が少なく、近隣県では入手困難です。 北海道には何台か見られました。 北海道にある車を我々個人がNET経由で直接購入するのはかなりリスクがあるので、現在取引のある県内ディーラーに探してもらって購入することとなります。 ディーラーは当方が気に入った車を北海道から陸送し、車検整備や車庫証明の取得をして当方に納めることとなります。 また、購入する車と破損した車の仕様が違った場合、仕様を合わせるために追加で費用が掛かります。 例えば破損した車に付いていたカーナビとリモコンエンジンスターターを移設すれば7万円~8万円かかります。 スノータイヤもサイズが変わったら買い替える必要があります。 これらのことを考慮してディーラーから出てきた見積もりは修理費の70万円よりはかなり高いものでした。
これらのことから私は保険会社と修理費全額を保険で出すように交渉しましたが全く相手にしてもらえません。 なぜ修理費全額が保険で出せないかを調べると、いろいろなことが分かってきました。 裁判所の多くの判例で『加害者は「車両の価値+買い替え経費」(経済的全損額)を被害者に対して金銭的に賠償すればそれ以上の賠償はしなくてよい』となっているからのようです。
今の法曹界の考え方は、例えば車両の価値が30万円であれば事故で70万円の修理費がかかると見積もられても、加害者は被害者に車両の全損価値である30万円に若干の買い替え費用を加えた額を賠償すればそれ以上の責任を負わなくてもいいというものです。
この考え方は過去の多くの同様な交通事故の判例から法曹界に確立してきた考え方となっています。 しかしこれは法曹界だけの常識で、一般の人は常識外の高額ならいざ知らずこの程度の修理費は全額賠償されるのが当然と考えるのです。 なぜなら多くの人は現在使用している車が古くても、使用に差し支えなければ乗りなれた車に乗り続けたいと思っているからです。 中古車というのは突然に探しても今までの車と全く同一のものが見つかるはずはありません。 車種やメーカーまで変わることが殆どです。 車が変わると操作方法や運転感覚も変わってきます。 高齢者にとってカーナビやオーディオの操作を再度覚えるのは難儀です。 携帯電話のハンズフリー設定やカーナビの行先登録、オーディオのコンテンツもすべてやり直す必要があります。 仕事で使っている人は仕事用の物入れや棚を特注装備していることも多々あります。 また費用にしても先に述べたように車両本体費以外に陸送費や付属品の費用、機器の再設定費や調整費など様々な経費が発生します。 裁判所の判例では陸送費や付属品の費用等はほとんど損害として認められないようです。
しかもこのような「経済的全損」という考え方は自動車に限られているようで建物などでは復旧費用が全額出るのが常識のようです。 例えば築60年の住宅に大型車が突っ込んで住宅が大破した場合です。 築60年の木造住宅なら評価価値はほぼ0円でしょう。 しかし住宅では耐用年数が大幅に伸びる場合は除き、元の形に復旧する場合は修理費用を全額賠償するのが法曹界の常識のようです。 この矛盾を何人かの弁護士に質問しましたが合理的な返答はだれも出来ませんでした。
これらのことから保険会社が修理費の一部しか出せないと主張する案件では円満な示談がなされず、トラブルが長期化することが続出したのです。
そこで普通我々が保険代理店を介して加入している自動車損害保のうち「対物保険」では「対物超過特約」が自動的に付保されるようになったのです。
対物超過特約というのは、このような車両価値より修理費が高額になった場合一定金額(50万円が多い)までは修理費の増額を認める契約です。 これがあれば全損価値が30万円の車両でも80万円までの修理費が保険で付保されるのです。 この特約は非常識な法曹界の常識と一般人の常識を埋める役目を果たし、現在は対物保険の80%以上にこの特約が付保されているそうです。 この特約が普及したおかげでこのような低価値車両の物損事故の示談が格段にスムーズになったようです。
ところが近頃代理店を通さずインターネットで直接加入する保険が登場しました。 この保険は代理店を経由しないこともあり、低価格を売り物にしています。 しかし、低価格を追求するあまり今までほぼ自動的に付保していた特約まで意識して申し込まないと付保されなくなってしまいました。 今回私に追突した加害者の車両はまさにこのインターネット損保である三井ダイレクト損保という会社の契約だったのです。 そして加害者は特約の必要性を認識しないまま申し込んだ結果、「対物超過特約」抜きで申し込んでいたのです。
保険というのはめったにないリスクを担保するものです。 担保範囲を狭めて安くするのは本末転倒です。 この保険はまさに「安かろう 悪かろう」の典型と言えるでしょう。 修理工場の担当者も「ネット保険と聞くとぞっとする」とコメントしていました。 ネット保険会社は低価格で受注増を求めるのではなく、保険本来の役目を果たす形の受注を目指すべきだと思います。
修理費が全額出ないことに納得できない私はしばらく示談に応じず放置して置いたら三井ダイレクト損保に依頼された弁護士が「事故における損害賠償債務は26万7千円を超えて存在しないことの確認」を求めて裁判を起こしてきました。 これを放置しておくと請求どおりに判決が確定するので、応訴するために弁護士を探したところ、これがまた大変に苦労することとなりました。 私は「修理する場合に必要な70万円を勝ち取れないか」と弁護士に相談したところ、どの弁護士も「それは無理だ」というのです。 今まで数多くの同様訴訟で判例が多くありますが「経済的全損額を賠償すればよい」という考え方が法曹界に蔓延しており「被害者の被害全額を賠償すべきだ」という一般人の常識とはかけ離れているのです。
県内の4人の弁護士に断られ、インターネットで「戦う弁護士」と謳っている弁護士事務所にも問い合わせましたが相手にしてもらえませんでした。 最後に自治体が開催している「無料法律相談」を利用し相談した弁護士が「全額は無理だろうが買い替え経費は請求できるだろう」ということで、この弁護士に依頼することにしました。 しかし私が本当に主張したかった「被害全額を賠償すべきだ」という主張を展開してくれる弁護士は見つかりませんでした。
結局判決では車両本体価格28万円に買い替え経費約6万円(この中には陸送費や付属品の交換費・設定費などは認められていません)、弁護士費用3万円と評価し約37万円支払えということになったのです。 結果として全く過失のない私が修理しても買い替えしても数十万円の負担を強いられることとなりました。
法は社会的に公正でなければなりません。 どんな屁理屈を付けても全く過失のない人に負担を強いるのは公正ではないし合理的でもありません。 経済的全損などという公正でも合理的でもない考え方は一般社会では受け入れられず紛争が多発します。 裁判所が紛争を助長しているということも言えます。 であるから、一般社会では任意保険で「対物超過特約」が普及し、ほとんどがこの特約で解決している現状があるのに法曹界はその現状さえ認めようとしないのです。 しかし現状では民間の保険会社が紛争多発を防ぐために採用している「対物超過特約」ですが、ネット保険加入者の一部は付保されていませんから付保されている保険加入者が加害者の場合と付保されていない人が加害者の場合では被害者の被害回復に著しい不公平が発生します。
今、政治や産業を含めて体制の劣化が激しい日本ですが、法曹界も同様に「変えないバイアス」が働いて国民の幸福な生活を守るという役目から遠ざかっていると思います。 本件の自動車物損事故における賠償で「加害者は被害者に対して経済的全損価値以上の賠償は必要がない」という考え方が間違っていることは明らかであるのに、法曹界の人はだれもそれを是正しようとは動きません。 自動車が普及し始めた頃は同じ仕様の車を大量に安く作ったので同種同仕様の中古車がすぐに入手できたのですが、今では同車種でも仕様や装備品は多種多様にわたり、同じ装備の車はほぼ入手できません。 また装備の通信設定やナビ機能の経歴記録等その車ごとの移設が面倒な機能も多々あります。 自動車は昔と違って簡単に同じもので代替できる時代ではなくなったのです。 法曹界は時代の変化に合わせ自らの頭も変えていく必要があるのです。
法曹界の常識と一般常識が乖離している場合は、法曹界は反省して一般常識に合わせる必要があります。 法曹界では「裁判員制度」を取り入れたりして一般常識に合わせる努力をしているようですがまだまだ意識の乖離は多いようです。
今回のようなケースでは法曹界は「保障は経済的全損金額まで」という一般常識から乖離した考え方を捨て、不合理なくらいに高額ではない限り「修理費全額を賠償する」という一般常識に合わせた考え方に変えるべきです。 その合理的線引きは民間損保会社が最も多く契約している対物超過特約金額である50万円程度でしょう。 例えば最高裁判所が指針としてこのような方向を示せばいろいろな矛盾や紛争が殆ど解消することとなります。
法曹界というムラ社会の住人は「自分たちの常識は世界の常識」と信じておりなかなか矛盾や不合理を認めようとしません。 もっと広く個人としての交友関係や社会活動の場を広げ社会の常識を吸収し、法が究極何を目的にしているかも理解して世の中の紛争が少しでも少なくなるような努力を続けてもらいたいものです。