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お知らせ・ブログ
■ 開発人生記_________機械工学を学んだことを生かして事業に必要な様々な機械を開発、その道のりを公開
開発人生記(その8) 浅井戸工法の開発
浅井戸工法の開発
今回は、私が50歳位の時に開発したお話ですから、20年以上前の話になります。 「開発人生記 その2」で書いたように、当時経営していた会社は「ウエルポイント工法」を主力事業としていました。 「ウエルポイント工法」というのは、地下水を真空吸引して地下水位を低下させ、掘削しても水が湧出しないようにすることで地下掘削工事を容易にする技術で、当時は環境改善のために日本中で下水道普及が急がれた時代で、多くの下水道管敷設工事が毎年発注されていたのでウエルポイント工事も沢山施工されていました。 地下水を吸引するために、掘削エリア周囲に先端から水を吸引するようにした細い鋼管を沢山打ち込むのですが、これを人力で行うため、打ち込み作業はなかなかの重労働です。 この重労働を機械化しようとして、下記のような吸水パイプ打ち込み用機械を考え、製作できる会社に発注しました。
この機械に油圧ブレーカーを改造した油圧打撃用ハンマーを吊り下げ、次図のような手順で、鋼管を打撃で地面に打ち込むのです。
この機械の製作には1000万円以上かかりましたが、毎日使うので数年で投資を回収できたと思います。
もともと、ウエルポイント工法の吸水パイプ一本一本は小さな井戸なので、この機械でもっと太いパイプを打ち込めば、浅井戸が作れるであろうと思いつきました。 そこで図の鋼管(ケーシング)内径をウエルポイントでは60mmとしていましたが、井戸用に100mmとして、それに合わせた底蓋(ロストビット)と打撃用のブレーカージゼルを設計し製作依頼しました。 井戸に使うパイプは塩ビのVP管を加工し下側1m程度にスリットを入れ、フィルター用にステラシートを巻いて使うこととしました。
実験として、自宅空き地で打ち込み、揚水したところ大成功で水はどんどん上がりました。 これはビジネスになると思い、少し知り合いに営業してみたところ、二件の浅井戸設置の注文をもらいました。 二件とも非常にスムーズに施工でき、大成功となりました。
更にこのうちの一軒の方の知人が自分の家も施工してほしいと注文をもらいました。 この方の家は施工した家から300m程度南側に位置していました。 数日後にその方の家も施工を行ったところ、水の揚がりが悪く目標の1/10程度しか揚水できませんでした。 地下の土質は300m離れただけでもかなり違っていることが多くあるのです。
実は、この機械で打ち込みできるパイプ長さは6.5m程度までなので、井戸深さは6m程度しか施工できません。 今まで施工した場所は、6mで充分水が揚がる滞水砂層に達していたのですが、今回施工した場所は表層の粘土層が厚くて砂層がもっと深いところにあったのです。 しかし、これ以上の深さはその時の技術ではできないので、少量の水(1分間に6~7ℓ程度)で我慢してもらい、1年~1年半後にもっと深い井戸を掘れる機械を開発したら、再施工することを承諾してもらいました。
それから、深い井戸を掘る技術開発を始めました。 最初はこの機械で打ち込む鋼管(ケーシング)をねじ込み式で長くする方法で試してみました。 ねじ部が打撃の衝撃で破損するのではないかとの危惧を持っての実験でしたが、案の定1本施工したとたんに壊れてしましました。 継ぎ足し構造の打ち込みは打撃式ではだめだと思い、次の手を考えました。 実は、この打撃式の機械を作る前は下記の図のようにバイブロハンマーによる振動で鋼管(ケーシング)を打ち込む方法でウエルポイントを設置していたのです。
この方法であれば打撃ではなく振動なので、継ぎ足し部のねじも壊れることが無いように思い実験をした結果、見事に成功しねじ部分に異常は見られませんでした。
施工のしやすさを考慮し、最初のケーシング長さは6m、以後2m長さのものを継ぎ足していくこととし、最深は22mまで施工できる材料を製作しました。 先の打撃式の方法と比べてこの振動式は先端から水を噴射させる必要が有るので、噴射用のポンプと水を準備する必要が出てきました。 その代わり、車載用のクレーンで吊り下げて作業できるので、家の塀越しで庭に井戸を設置することも可能となりました。 一長一短はありますが、狭い一軒家の庭に機械を入れないで施工できるメリットは大きく、以後、多くの施工を受注できる技術となったのです。
完成したら、とりあえず1年ほど前に施工して、水の揚がりが悪かった家庭を訪問し、新しい工法が完成したのでもっと水が揚がるようにできますと伝えたところ、早速施工してほしいとの依頼を受けました。 その家では、以前は6mの井戸でしたが、これを10mまで深くしたところ、充分な量の水を確保できるようになりました。 この家の方は80歳位の老夫婦で、玄関から前面道路まで5m程度のアプローチが有るのですが、雪が降るとそのアプローチだけの除雪も老齢で苦労するようになったので、地下水が出れば融雪出来るようにになるからどうしても地下水が欲しいとのことでしたので、充分な量が確保できて大喜びでした。 この工事の施工中、近隣の奥様方が何人も見に来られ、同じような悩みを抱えていたらしく、工事内容を聞くと、自分の家にも掘ってほしいという人が沢山出てきて、なんとその近隣だけで5軒の家で施工させていただきました。 以後、口コミや営業努力で多くの施工をすることとなるのですが、いくつか問題が出てきました。 一つは、営業員からこの家で浅井戸を掘ったら水が出るかどうかという問い合わせが頻繁に来ることです。 私は過去のウエルポイント工事等の経験から、富山県のどの地区なら浅井戸で水が揚がるか分かるのですが、営業員はわからないためいちいち聞いてくるのです。 面倒なので、概略の目安図を下図のように作り、概略を各営業員が判断できるようにしました。
もう一つは、浅い地盤の地下水は鉄分が多く、散水すると赤く着色することです。 地下水の鉄分を除去する「除鉄器」というものが有るので、いろいろなメーカーのものの資料を調べたり試用したりしてみましたが、融雪に使う場合は水量が多いためコスト的に合わず、鉄分除去は断念しました。
しかし舗装表面をさび色に着色させたくないため、散水しないで融雪を行う「無散水融雪」技術に方向を変えて研究を始めました。 先ずは自宅駐車場入り口を実験場として研究をつづけた結果、配管技術と効果を確認することが出来ました。 その結果をもとに営業を開始し、数件の施工をさせていただきました。 施工させて頂いた方は等しく「すばらしく役に立った」とお褒めの言葉を頂きました。 この言葉を励みに、その後この技術のコストダウンを図って更なる普及につなげるため「開発人生記その5」で紹介したように配管曲げ技術の開発に進んでいったのです。