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お知らせ・ブログ
■ 開発人生記_________機械工学を学んだことを生かして事業に必要な様々な機械を開発、その道のりを公開
開発人生記(その2)
ウエルポイント工法に挑戦
私は、当ブログ開始最初の 「ブログ初挑戦」に書いたようにいくつかの会社を創業してきたのですが、35歳~40歳くらいの時は建設機材の販売・レンタル・修理を業とする会社をもう一人の経営者と共同経営していました。 その会社の専務をしていたのですが、訪問営業にもよく出ていました。
折しも日本は自動車をはじめとした輸出攻勢でアメリカとトラブルになっていた頃で、アメリカの外圧で内需拡大政策を進めつつあった頃です。 内需拡大と環境保全の切り札として下水道整備計画が全国で始まり、富山県では最初に県西部で「小矢部川流域下水道」の整備計画が実施されることとなりました。
流域下水道計画で最初に作るのは「浄化センター」という汚水終末処理場です。 県西部の市町村からでる汚水を集めて浄化し放流する二上浄化センターが高岡市二上地区に作られることになり、最初に第一ポンプ棟建設工事が発注されました。 県西部の汚水の多くの部分を処理する訳ですから、広大な敷地にいろいろな施設が順次建設されていくわけです。 この二上地区は当時共同経営していた会社から車で5分くらいの近いところでした。
この最初の工事を富山県出身のゼネコン「佐藤工業」が受注したので、私は建設機材のレンタル営業に出向きました。 現場事務所に居合わせた所長は「レンタルは間に合っているが、この工事にはウエルポイントという工種の施工が必須なのだが富山県にはウエルポイント専門業者がいない。 名古屋か大阪から呼ぶしかないが、長期の工事なので遠方の業者では常駐管理費が高額となる。 近くに基地があるお前の会社でやってくれ」との言葉。 ウエルポイントとは水の出る砂地で掘削する場合に、予め周囲に真空で吸引するパイプを沢山打ち込んで水を吸い上げ、掘削しても水が出てこないようにする工法です。
当時まだ30代の私は「人が出来るものは自分でもできる」「面白くて稼げそうなものは何でもやりたい」と思っていたので、「ウエルポイントの機材を販売したことはあるが、施工は経験がなくわかりません。 しかし、やり方を教えてもらえば出来ると思います」と答えました。 すると話はとんとん拍子に進み、ウエルポイント工事を請け負うことになったのです。
しかし、何しろ初めての仕事ですから元請けの佐藤工業をはじめ、いろいろな人に「見積の基準」「施工の仕方」「機材の調達」「管理のポイント」などを聞いてまわり、教えてもらって覚えました。 元請けから「揚水計画書」なるものを書いてみろと言われ、いろいろな人に雛形が無いか聞きましたが手に入りません。 今ならインターネット検索ですぐに見つかるでしょうが、当時はインターネットはありません。 専門書を扱っている文苑堂書店の地下へ足しげく通い、地下水に関する専門書を読み漁りました。 勉強したおかげで地下水位低下の計算方法や揚水計画書作成のノウハウを蓄積し、その後の営業活動に大きな力となりました。
その後、二上地区に水処理ラインや焼却棟などの浄化センター施設がどんどん発注されていき、いずれもウエルポイント工法が工種に入っていました。 工事毎に受注者は変わるのですが、いずれも名の知れたゼネコンです。 私は佐藤工業の所長に大変気に入られていたので、新たな工事が出るたびに所長は受注したゼネコンに、ウエルポイントは私に発注するように電話してくれました。 当時の佐藤工業は富山県では大変力があり、ゼネコンが富山県で工事を受注しようと思ったら佐藤工業に挨拶がいるといわれた時代です。 私は労せずして浄化センターのウエルポイント工事を次々に受注し、5年間位は切れ間なく仕事をしていました。
この浄化センター工事のみで、ウエルポイント設備を10セット以上購入し、償却できました。 浄化センター工事や汚水幹線工事が進むのと同時進行で市町村が発注する家庭内排水を集める管渠の面整備も進行し出し、そちらでもウエルポイント工法が採用されはじめました。 そのころには、私はウエルポイント工法のプロになっていたので、ほとんどの工事を競合なく受注していきました。 そのうち、県内他地区でも終末処理場と面整備が始まり、その多くの工事に携わることが出来ました。
先に、共同経営を行い私は専務をしていたと書きましたが、二上浄化センター工事が始まって1年半くらい経った頃、共同経営者と不仲になり、私はその会社を追い出されるように工事部門だけを持って独立しました。 共同経営の会社に個人の資金をほとんどつぎ込んでいた私は、先方が出資金も貸付金も給与さえも払ってくれないので、この時点で自身の事業資金はほぼ皆無になってしまいましたが、ウエルポイントの技術と設備は私が持っていたので、すぐに近隣で土地を借り基地をつくり営業体制を作った結果、多くのウエルポイント工事は私が受注することが出来、富山県内ではほぼ独占企業となることが出来ました。
簡易ウエルポイント工法の開発
工事を沢山していくうちに、1日で終わるような小さな工事でウエルポイント設備を一式持っていくと、電源も大きなものが要り大変無駄だと思うようになりました。 そこで開発したのが「簡易ウエルポイント装置」です。 これは揚水ポンプとしてエンジン付きの自吸式ポンプを使うもので、市販のエンジンポンプを少し改造するだけで使うことが出来ます。
ポンプの排気能力が小さいので、最大効果を発揮させるための取り扱いノウハウは覚える必要があるのですが、それを覚えた人が使えば軽四トラックで全部材を運んで施工できるため、コストは大きく低下します。
特によく使ったのは下水道面整備が終わって道路下に下水管が設置された後に、追加で汚水桝を設置する場合です。 桝と下水管をつなぐために下水管を掘って見えるようにしなければなりません。 掘っていくと下水管周囲からほぼ水が出てきて周囲の砂が崩壊します。 水が出てこなければ掘ってつなぎこみをするのは数時間で終わります。 ここに吸水パイプを5~6本打ち込んで揚水すれば水が出なくなるので、工事はあっという間に完了です。 はじめは自社現場で使っていたのですが、見ていて欲しいという業者が多くなったので、欲しい人には販売したので20台以上売れました。 レンタル用の機械も用意したら、たいへんよく使ってもらえました。 自社工事・販売・レンタルと3部門で稼がせていただきました。
バーチカルウエルポイント工法の開発
ウエルポイントの工事はどんどん多くなり、最盛期は富山県内中心に年間300現場程度施工するようになりました。 ウエルポイントで地下水位を下げるのは掘削深さ5m程度が限界ですが、現場が多くなるともっと深いものに対応できないかという相談が来るようになりました。
深いものは通常「ディープウエル」という工法を使うのですが、ウエルポイントに比べて高額である上、地下水位を広範囲に低下させるので周辺地盤の沈下を起こすことが有り、環境負荷が大きいのです。
ウエルポイントであれば、ディープウエルよりはるかに影響範囲を狭めての水位低下計画が出来ます。 このため、掘削した下段にもう一段深いウエルポイントを施工し、揚水ポンプは下段に降ろせるコンパクトなものを開発しました。 写真に写っている現場は最深部が9m以上の深さがあります。 1段目は通常の地表面付近で配管し、通常のポンプを使っています。 2段目は3m程度下がった所に配管し、ポンプは専用に開発した円筒形のコンパクトなポンプを付けてあります。 さらに、写真奥側は1.5m程度深くなっているのでその付近のみ1.5m程度下がった位置にもう1段配管し、ウエルポイントを施工してあります。 つまり、3段構えでこの現場の水位低下を行っているのです。
この工法の設計はかなり高度の知識と経験が必要であるため施工例は多くありませんが、ディープウエルに比べて安価な上、確実な水位低下を達成できるので採用したゼネコンや発注者には大好評でした。
今のようにインターネットが発達していればホームページ等でもっとPRが出来、普及したのかも知れませんが、下水道の全国普及が完了した現在ではこのように深い掘削が減少し、採用実績は伸び悩んでいる様です。
環境負荷が小さく、コストメリットが大きい工法なので、ディープウエル工法が本工法に置き換わることが求められている時代であると認識しています。 掘削工や水替え工の設計者の方には、是非採用検討をお願いしたいと思っております。