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■ 開発人生記_________機械工学を学んだことを生かして事業に必要な様々な機械を開発、その道のりを公開
開発人生記(その1) まるぼりくん工法開発のお話
まるぼりくん工法開発のお話
以前に公開したブログ「企業経営のお話 その2 – 創業のすすめ」で、私は「幸せな「開発人生」を満喫できました」と書きましたが、機械工学を学んだ私は土木の手仕事を機械化してコストダウンしようといろいろなアイデアを出して今までにない機械を開発してきました。
そもそも会社経営を始めたのも「自分の思いを形にして世に問いたい」との考えが一つの動機であったので、新商品開発は私のライフワークでもあったわけです。
開発したものは沢山あるのですが、私が生業としたのは「特殊土木」というどちらかというとマニアックな世界で、開発した機械を販売して利益を上げるのではなく、他に無い機械を使って「従来のやり方より人手と工期を短縮」することで「大幅なコストダウン」を引き出し利益を上げようとするものです。
機械の開発には相当の費用が掛かりますから、費用を賄うにはその機械を何回も使う必要があります。 私の営業目線は、その機械を使って他社より大幅に安いコストで出来る仕事を沢山受注するということでした。
このような目線で開発したものは沢山ありますが、成功したもの、失敗したもの様々です。
今回は「その1」として、大成功した「まるぼりくん工法」を取り上げたいと思います。
この工法は、日本中で下水道工事が盛んに行われていた1990年代に、主として宅地内下水道汚水桝設置の竪穴を掘るために、掘削径600mmの丸い掘削バケット「円筒バケット」を開発したことから始まりました。
宅地の汚水を下水道管につなぐために、宅地内には汚水桝という中継桝を設置します。 桝設置のために径600mm~700mmの丸い竪穴を人力で掘るのですが、これがなかなか大変です。 深さは浅いもので60cm、深いものだと1.5mを超える場合もあります。 これを機械化するために作ったのが円筒バケットです。
5~6年程度は竪穴掘削の省力化に大活躍していたバケットですが、下水道普及率が80%を超えるあたりから下水道工事が少なくなり、活躍できる現場が無くなってきました。
ところが2000年代に入ると携帯電話の普及が始まり、これに伴い基地局があちこちで建てられるようになってきました。 基地局というのは電波の中継をするアンテナ局のことで、電柱より一回り大きなコンクリート柱の先端にアンテナを付けたものも沢山建てられています。 電柱は穴を掘って根っこを3m程度中に入れて埋め戻しただけですが、基地局の柱は土質条件等を計算し、台風や地震でも容易には傾いたり倒れたりしないようにかなり深くて頑固な構造にしています。
この基地局コンクリート柱の建柱を請け負った業者が、建柱の穴を掘り始めたところ水が出てきて掘れなくなったから、「ウエルポイント」を施工してくれと当社に依頼がありました。 ウエルポイントというのは当社が得意としていた地下水位低下工法です。 私が見に行ったところ、現場ではライナープレート工法という曲げた波板を組み合わせて土留めとし丸い穴を掘っていくやりかたで施工していました。 掘っていく穴径は2mもあります。 穴の中で人力で掘るため、2m程度ないと掘れないのです。 そして水が出てくると周囲が崩壊し、穴が掘れなくなってしまうのです。 この現場では6mまで掘削の予定でした。
ここで私は、コンクリート柱を入れるだけなら、穴径はどれだけあればいいかと聞いたところ、柱の最大径は550mmなので600mmあれば大丈夫とのことであったので、ライナープレート工法はやめて、径800mm・長さ6mの鋼管建て込みを提案しました。 こうすれば円筒バケットで掘削できますから、ウエルポイントも省くことが出来ます。 予算面でもウエルポイントだけで60万円程度費用が掛かりますが、60万円で鋼管建て込みが完了します。 工期面でもライナープレート工法では1週間程度かかりますが、鋼管工法に変更してもらえれば、私は「1日で鋼管が設置できます」と宣言しました。
この工事の発注者はNTT金沢支店だったので、請負業者は発注者にお伺いを立てたところ、今まで1週間かかっていた工事を1日で出来、しかも費用が安くなるのなら変更していいとの許可が出ました。 しかし、NTTはほんとにそんなマジックみたいな掘削が出来るのか信じ難かったようで、施工日には金沢から6人も見学に来ました。
当日、衆人環視の中で1日で建て込みが終わると、大変な高評価で「これからはライナープレート工法はやめてすべてこの工法としよう」となりました。 「まるぼりくん工法」が世に出た瞬間です。
それから1年くらいはNTTの仕事でほぼ毎日基地局の建柱掘削をしてきました。 沢山穴を掘ると、円筒バケットでは硬くて能率の悪い土質があることがわかり、刃先先端に爪を付けられるように球形になった「まるぼりバケット」を開発しました。
さらに最初は機械の重量で鋼管を押し込んでいたのですが、入りにくい土質があり鋼管に振動を与えると入りやすいことがわかったので、バイブロハンマーの振動と重量で押し込むこととし「スーパーまるぼりくん工法」と名付けました。
さすがに1年くらいするとNTTの建柱数が少なくなったのですが、NTTの次はKDDI(Au)が基地局増設を始めました。
基地局建設の設計はそのような工種が得意な設計事務所にいずれの発注者も発注するので、NTTに採用されれば営業しなくても設計事務所に工法が知れ渡るので、設計事務所から採用相談や見積依頼が来るのです。 NTTは金沢支店管内(富山・石川・福井)のみでしたが、Auは関東や近畿まで出張して沢山施工してきました。 数年してAuが一段落したらソフトバンクの建柱が始まりました。 ソフトバンクは北陸管内(新潟・富山・石川・福井)で沢山施工させて頂きました。
携帯3社の基地局増設が一段落した後は仕事が少なくなったのですが、携帯がスマホになってきたので、再び増設が始まりました。 スマホは送るデータ量が多いので、短波長の電波を使います。 短波長の電波は障害物があると届きにくいので、基地局はすべて見える位置同士で建てる必要があるのです。
さらにこれからは5Gが始まると、さらに短波長の電波を使う必要があり、建柱が増える可能性があります。
また、楽天が第4の携帯キャリヤーとして参入したので、この基地局建柱も発注される可能性があります。 これからもこの工法は施工が続きそうです。